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当サイトで武州一エントリーモデルの
販売を始めた理由

このたびは剣士デビュー、誠におめでとうございます。
日本の伝統文化、剣道の素晴らしい世界へようこそ。
剣道に興味を持ち、一歩踏み出した皆さまと保護者の皆さまに
同じ志を持つ一人として、お慶びのエールをお送り申し上げます。

私ども武州一は、1970年代から一貫して本藍先染めの剣道着を作り続けてきました。私自身も中学生の頃から剣道に親しみ、今日でも上達をめざして鍛錬を続けています。

さて、近年では、化学繊維を使ったジャージ剣道着、合成藍や硫化染めによる剣道着なども見かけますが、私たちは今も、天然藍を使って糸から染め上げる「天然発酵・先染め」の製法を守り続けています。
なぜ私たちが、この手間隙かかる技法にこだわるのか。

そこには理由があります。
また、今回当サイトで武州一エントリーモデルを販売するに至った経緯も剣道界を取り巻く環境が大きく変わろうとしている今こそ、私どもの真意をお伝えしたいと考えたからに他なりません。
これから剣道上達をめざす皆さまには、ぜひともご一読いただき、正しい知識を身につけていただければ幸いです。

野川染織工業株式会社
代表取締役
野川雅敏

剣道着は衝撃を吸収し、痛みを和らげる防具である

剣道は、ご存知の通り、竹刀で相手の打突部位を正しく打突することで勝敗をつける武道です。打たれた側は当然痛い思いをしますが、防具は、この衝撃や痛みを和らげる大切な役割を担っています。そして、剣道着もれっきとした防具のひとつであり、相応の布地の厚み(衝撃吸収性)と、日々使い続けてもヘタらないコシの強さ、体さばきを邪魔しないしなやかさが必要となります。

例えばジャージ剣道着は一見すると厚みがあって柔らかく、適性がありそうな気もしますが、竹刀で打たれた時の衝撃を十分に吸収できるほどの有用性を持ち合せてはいません。生地の厚みそのものが中に含まれる空気によって生まれているため、局所的な衝撃には弱いのです。

一方、武州一の剣道着は、糸の状態で藍に染め、それを布に織って縫製しています。糸の段階で藍に染める理由は、そうすることで糸そのものが丈夫になり、布に織ったときのコシの強さや耐衝撃性が向上するからです。

また、ジャージ剣道着は比較的目の粗い編み物のため、竹刀のささくれを通してしまうおそれがあり、安全性の面からも不安を拭いきれません。もちろん武州一の剣道着なら、織り密度の高い藍染め布のため、ささくれの侵入も未然に防ぎます。

冬の寒さから身を守り、
真夏の熱中症を防ぐ先人たちの知恵

剣道は、四季豊かな日本の気候風土の中で受け継がれてきた日本固有の文化であり、日々精進することで心身共に柔軟な人間性を育んでくれます。とはいえ、真冬の身を切るような冷たさや、蒸し風呂のような真夏の道場は、長年剣道に親しんできた私でさえ、時に閉口しそうになります。

剣道着と藍染めの関わりは戦国時代の武士にまでさかのぼります。藍染めは丈夫で、かつ戦で負った切り傷に殺菌効果を発揮しました。
剣道着に藍染めを選んだのは、そんな厳しさを少しでも和らげるための先人たちの知恵だったのでしょう。天然藍で仕立てた布地には、傷口を癒すだけでなく保温効果もあり、凍てつく寒風から体を守ってくれます。また、藍布には吸汗速乾効果もあり、夏場の汗を素早く吸入し、熱を体から逃がすことできます。

こうした効能は、残念ながらポリエステルなどの化学繊維には期待できません。汗にまみれた化学繊維はまとわりつくように体を覆うため、身体中がいわば魔法瓶のような状態になり、本人も気づかないうちに体へのダメージが蓄積していくおそれがあります。

近年、一般肌着製品では吸汗速乾性に優れた商品や保温性に優れた商品が人気ですが、ジャージ剣道着はまったく別物です。機能性素材ではありますが、防具に身を包んで激しい運動を行う剣道での効果は限定的と言えます。

臭いを抑え、いつまでも長く使えるのは
木綿糸と藍染めのおかげ

汗をうまく処理するということは、臭いを抑えることにもつながります。
最近の研究では汗そのものに臭いがあるわけではなく、空気や雑菌と混じり合い、体や布に残留することがイヤな臭いの原因だと言われています。皆さんのご家庭でも、長年着続けたスポーツウェアなど、洗っても洗っても臭いが気になった経験はありませんか?

実は、化学繊維の場合、一度中までしみ込んでしまった汗は洗濯しても少しずつ残留し、それが悪臭の原因となります。

一方、武州一をはじめ木綿製品の場合は、洗濯すれば奥に入り込んだ汗が流れ去り、残ることはありません。

善し悪しは別として、現代社会は臭いにとても敏感です。自身の集中力を高めるためだけでなく、剣士同士、気持ちの良い交流のためにも、汗や臭いに負けない長く使える剣道着を選びたいものです。

多用される「武州」「正藍染」。
類似製品にご注意ください

健康志向や自然志向の高まりから、様々な生活シーンで藍染めが注目されています。それ自体は作り手としてとても嬉しいのですが、残念なのは、「藍染め」という言葉がその響きだけで多用され、消費者の皆さまに誤解を与え兼ねないような商品も出回っている現実です。

私たちは「天然藍を自然発酵で使っていること」を第一義とし、それを「糸の状態で染めて、布に織ること」を信条としています。
この2つを、「武州一」の譲れない原点に置いています。

一方、天然藍ではない「合成藍」や「硫化染め」、布の状態で染めた「後染め」の衣類も、日常生活では藍染めと謳われることも多く、同じ商品棚で売られています。
一般にアトピー性皮膚炎などアレルギーに起因する身体の不調は、化学繊維や染料に含まれる物質が、知らず知らず体内に吸収されていることが原因と言われています。また、その表れ方は、個人差があると同時に、時々の心身の状態(ストレス具合)によっても変わってきます。

剣道に限らずどんな武道・スポーツの分野でも、日々の取り組みが真摯であればあるほど、また大会や昇段審査に臨む姿勢が真剣であればあるほど、心身へのストレスも大きくなります。であれば、ストレス自体は軽減できなくとも、それに起因して不調をきたさない自然由来の衣類(剣道着)を選ぶのは、賢明な選択と言えるのではないでしょうか。

まとめにかえて

剣道は、相手を思いやる気持ちや芯の通った身のこなし、一瞬の瞬発力、一本にかける集中力など、心身ともにまっすぐな人間性を養ってくれます。そんな剣士の佇まいを凛と輝かせるのもまた、剣道着の善し悪しを決める重要なポイントといえるでしょう。

剣道=スポーツととらえられがちですが、剣道は武道であってスポーツではない、というのが武州一の考えです。剣道には歴史に裏付けられた文化と哲学があり、稽古に励むことは、生きるたくましさや周囲への思いやりの気持ちを育むことに他ならないと信じております。

私どもが販売する武州一は、藍染めから織布、縫製に至るまで、熟練の職人が丹誠込めて作っています。それらすべての職人の目に叶ったものだけが、工程のいちばん最後に、「武州一」のブランド証を縫い込まれます。

野川染織工業は、作り手として誇りを持てる剣道着しか世に送り出しません。「武州」、「本藍染め」、「正藍染め」など似たような名前の製品を見かけた際には、そこに「武州一」の三文字があるかどうか、今一度見極めていただければ幸いに存じます。

長文を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
「文武両道」、「交剣知愛」。
剣道を通じて様々な人と出会い、皆さまの人生がより一層健やかで充実したものになることを、心よりお祈り申し上げます。